2020年4月30日木曜日

数学リテラシー1(第2回)

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)]


写像の一般論
今日は写像についての講義でした。

以下文字ばかりですいません。
本当は図を載せるべきなのでしょうけれど、
ここに図をのっけることはできるのですが、少々面倒なのでご勘弁を。
できる限り、紙を用意して図を描きながら進めるとよいかもしれません。


さぁて本題に入りましょう。
まずは皆さんをのっけからこまらせた写像の説明からです。


$A, B$ を集合とします。$f:A\to B$ が写像であるとは、
$A$ の任意の元 $a$ に対して、ただ一つの $B$ の元 $f(a)$ を定める
規則のことを写像といいます。

このとき、$a\mapsto f(a)$ とかくことで、その写像を定義することができます。

このように言われてもよくわからないかもしれませんね。
皆さんがこれからずっと実践してほしいことは、

抽象的なことは、より具体的に考え、
具体的なことは、より抽象的に考える。

言われた通りに理解しようとしない。
ちょっと穿った見方というか、1つのことを多角的に見ることを考えましょう。
研究者でも、理解しにくいことは多々ありますが、
そんなとき、以下のことを試しています。

  • もっといい理解の仕方があるのではないか?
  • 別の見方があるのではないか?
  • それを満たす条件は何か?
  • 具体例が作れるか?
  • 条件を外したとき成り立つのか成り立たないか?
  • なぜこのようなことを考えなければならないか?
  • 極端な例を考えてみる。(その概念を満たすぎりぎりのところの例)


そのため、定義やルールを決めたときに、大抵例を書くのが普通です。
実践していきましょう。


例1
三角関数 $\sin x$ を用いて、$x\mapsto f(x)=\sin x$ のように定めることで
実数から$[-1,1]$ への写像を作ることができます。
$[-1,1]$ とは、$-1$ 以上 $1$ 以下の実数を表します。

このとき、写像 $f$ は $f:{\mathbb R}\to [-1,1]$ であることになります。

また、

例2
整数 ${\mathbb Z}$ から、$1$ と $-1$ からなる集合 $\{1,-1\}$ への
写像 $f:{\mathbb Z}\to \{1,-1\}$ を $n\mapsto f(n)=(-1)^n$ のように定めることができます。

つまり、写像とは関数のようなものだと考えることができますが、
高校までの関数と違って、値となるものが数とは限らず、何かの集合
であったり、数字の組み合わせであったり、平面上の点であったりします。
そういうのも含めた”関数”を写像といいます。

例えば、少々難しい写像としては、

例3
実数 $m$ に対して、方程式 $y=mx+1$ を満たす $xy$-平面上の直線 $L_m= \{(x,y)|y=mx+1\}$ を与える規則も写像となります。
そのような写像を $F$ とすると、
$$F:{\mathbb R}\to \{L|L\text{は平面上の直線}\}$$
となり、$F$ は $m\mapsto L_m$ という定義ということになります。

すいません、この例3が理解できなければ無視して先に行ってください。


この例にしても、上の2つの例にしても思想は、関数と同じです。
何か与えられた集合 $A$ の任意の元に対して、何か $B$ の値が出てくるということです。


しかし、注意して欲しいことは、
$A$ のどの元に対しても定義しなければならず
$B$ のある元の一つだけに対応しなければならない
ということです。

例えば、$x\mapsto f(x)=\frac{1}{x}$ という対応を考えても、これは
写像 $f:{\mathbb R}\to {\mathbb R}$ とは呼びません。
$0$ の行き先 $f(0)$ が定義されていないからです。
${\mathbb R}\setminus \{0\}$ から ${\mathbb R}$ への写像としては定義されています。


また、$A=B={\mathbb R}$ として、$x\mapsto \pm \sqrt{x}$ という
対応も写像ではありません。まず、$x$ が負の数であれば、$\sqrt{x}$ は実数では
ありませんし、符号がどちらか決められていないので、${\mathbb R}$ の
ただ一つの値としても決まってはいません。


もう少しイメージしやすい例を考えましょう。
小学生全体を $A$ として、学年の集合 $\{1,2,3,4,5,6\}$ を $B$ とします。
今、写像 $f:A\to B$ をその小学生の属する学年に写す規則を考えます。
つまり、$a\in A$ という人には、$a$ の所属する学年を $n$ としたとき、
$a\mapsto n$ という規則で写像を作るのです。
この規則は、全ての小学生に、ただ一つ学年が決められているわけですから、
写像となります。
これを学年写像と呼ぶことにしましょう。
下でもこの名前を使います。

例えば、小学生全員に、「あなたの弟の学年のところまでいきなさい!」
という指令を出してしまうと、場合によっては弟がそもそも存在しない場合もあるし、
小学生の弟は在籍するのだが2人以上違う学年におり1つに決まらないなどの場合は、
児童は路頭に迷い、逆に「変な指令をだすんじゃない!」と怒られてしまうわけです。
もしかしたらこのような変な指令をだしたらほとんどの児童は動けないかもしれません。
つまり写像とは自動的に1つに行き先が決まらないといけないわけです。


学年写像 $f$ は、運動会での全体演技後「自分の学年の場所に戻りなさい」
でも同様なことが起こるわけです。
このように言われるととすると、
(素直な小学校の子供たちなら、)自動的に自分の元の持ち場 $\{1,2,3,4,5,6\}$
に戻れるわけですよね。(児童なだけに...)



単射と全射
次は単射と全射です。

単射と全射を教えるとき、いつもわからない人が続出する部分です。
twitterでも何人かの学生がわからなかったと言っていたようにみえました。
単射と全射は初めてきく概念ですので、一度聞いてすぐわかることは難しいと思います。

もう一度書いておきましょう。

単射の定義
写像 $f:A\to B$ が単射であるとは、
$a,a’\in A$ に対して、
もし、$a\neq a’$ であれば、$f(a)\neq f(a’)$ を満たす
ことをいう。


まず、$f$ が写像であることが仮定として必要です。
写像でないと単射かどうかの議論さえできません。
結論を言えば写像でないものは単射になり得ません。

これ以降、$f$ は写像であることを仮定します。
そのとき、単射であることは、文字通り読めば、
違う元同士は違う元に写るということです。
しかし、写像によっては、違う元なのに同じ元に行ってしまうことがあります。

例えば、一番簡単な例は、
$f:{\mathbb R}\to {\mathbb R},x\mapsto x^2$ ですが、$1$ の行き先も $-1$ の行き先もどちらも $1$ です。

しかし、$g:{\mathbb R}\to {\mathbb R}$ として、$x\mapsto x^3$ であれば、
これは単射です。
$x,x’\in {\mathbb R}$ のとき、$x\neq x’$ ならば、$x<x’$ と
仮定してやると、$x^3<(x’)^3$ であるから、とくに、$x^3\neq (x’)^3$
が成り立ちます。$x’<x$ としても同様です。

なので、写像によって単射であったり、単射でなかったりします。
たとえば、

$f:{\mathbb Z}\to {\mathbb Z}$ として、$n\mapsto f(n)=n+1$ という写像
とすると、$n\neq n’\in {\mathbb Z}$ に対して、$f(n)=n+1\neq n’+1=f(n’)$
が成り立つので、この $f$ も単射になります。


最後に、単射性を対偶を使って言い換えておきます。
$p\Rightarrow q$ の対偶は、$\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$ ですから、
単射性の条件は

$f(a)=f(a’)$ なら、$a=a’$

となります。
この関係は下で何度もでてきます。

次は全射です。


全射の定義
写像 $f:A\to B$ が全射であるとは、$B$ の任意の元 $b$ に
対して、$A$ の元 $a$ が存在して、$f(a)=b$ を満たす


ポイントは、$B$ の任意の元(つまり全ての元)というところです。
$B$ のありとあらゆる元をとっても、その元に写ってくる $A$ の元がいる
ということです。


今、学年写像 $f$ を用いて小学生全体 $A$ に対して学年
$B=\{1,2,3,4,5,6\}$ を割り当てるとき、
$f$ が全射であるということは、

どの学年にも一人以上は児童がいるという状況

これが全射ということです。
例えば、4年生だけ一人もいないという状況もどこかの小学校でも
起こり得るかもしれませんが、このような小学校における
学年写像 $f$ は全射ではないということになります。

上の写像の定義を小学生を用いて言い換えると、次のようになります。

全射の定義(学年写像版)
学年写像 $f:A\to B$ が全射であるとは、任意の学年 $b\in \{1,2,3,4,5,6\}$ に
対して、ある小学生 $a$ が存在して、$a$ の学年は $b$ になる。


少し言い方は堅苦しいかもしれませんが、意味はわかるのではないでしょうか?
この定義から上の全射の定義まで目を平行移動させて、もう一度全射の定義を
読んでみてください。
(この行為を抽象化といいます。)


数学を用いた全射の例は以下のものがあります。

例4
$f:{\mathbb Z}\to \{1,-1\}$
を、$n\mapsto f(n)=(-1)^n$ とします。
このとき、$1\mapsto -1$ であり、 $2\mapsto 1$ であるので、
$1,-1$ のどちらにも、それぞれその数に写ってくる整数が存在します。


全単射の定義
写像 $f:A\to B$ が全射かつ単射であるとき、$f$ は全単射という。


全単射というのは、$A$ と $B$ が完全に対応関係が定まる
ことを表します。

例えば、上の写像 $f:{\mathbb Z}\to {\mathbb Z}, n\mapsto f(n)=n+1$
とするとすると、$n$ に対してただ一つだけ $f(n)$ が
定まり、$m\in {\mathbb Z}$ に対して、$m=f(n)$ となる $n$ はただ一つ
しか定まりません。

実は、$f$ が全単射であることと、逆写像(逆向きの写像で
$f$ の逆の割り当てをするもの)が定まることは同じことです。
これは下の補題で証明します。この説明は中途半端ですが、やめておきます。



このように、全ての元に自動的に答えが定まるようなものは全て写像です。
そういうわけで、ある意味身の回りには写像であふれていると言っても良いです。
家の中を見回してみると写像となっているものはすぐに見つかるの
ではないでしょうか?
また、意外なところに写像が存在してハッとなるかもしれません。

例えば人間のパーソナリティに関係するデータは全て写像を与えます。
人間の集合から血液型全体 $\{A,B,O,AB\}$ への写像、年齢をとる規則も写像となるし、
生まれ落ちた場所を与える規則も写像になります。
人間全体の集合から地球上のある点 $p$ への写像。
また、役所にデータ化されている住所だって一人一人に与えられた
写像です。大学に入って一人暮らしを始めたとすると、
日本に住む日本人全員を $A$ として、その住所を割り当てる写像を $f:A\to B$ とする
($B$ は日本の住所全体)自分 $a$ の行き先が去年より少しずれることになります。

人間がその日に何を食べたかだって食べ物全体の部分集合全体への写像をなします。
何も食べない日があったとしても、空集合への写像となります。
(この例は少々むずかしいか...)

単射の例をとしては、マイナンバー制度があります。
日本人全体を $A$、12桁の数全体を $B$ とすると、
$A\to B$ として、その人のマイナンバーを与える写像とします。
このとき、違う人に同じ番号を割り当てることはないわけなので、
単射ということになります。
しかし、全射ではありません。12桁の数すべてに対して
どなたか日本人が存在したとすると、
日本人の数は12桁の数字の分だけあるということになってしまいます。
12桁の数全体は、$10^{12}$ で、現在の日本の人口はおよそ $1.2\times 10^8$ 
くらいですからそういうことは起こりません。


などなど、日常みてみると、値が数となるような関数より、何か点だったり、
集合だったりで数ではないようなバリエーションがある写像に溢れています。
用途に応じて単射、全射もいくつかあります。



次に、像と逆像の定義をしましょう。

写像 $f:A\to B$ に対して、$C\subset A$ を考える。
$f(C)=\{f(c)|c\in C\}$ を $C$ の $f$ によるという。

逆像
写像 $f:A\to B$ に対して、$D\subset B$ を考える。
$f^{-1}(D)=\{a|f(a)\in D\}$ を $D$ の $f$ による逆像という。


像というのは、$c\in C$ に対して、$f(c)$ となる元全体ということです。
先ほど小学生の例を考えたので、その例を用いましょうか。
$A,B,f$ は先ほどと同じで、$f$ は学年写像とします。

まず $C=A$ の場合は $f(C)=f(A)$ はその小学校の在籍する学年の集合ということに
なります。
次に、$C\subset A$ として $A$ より小さい集合をとります。
例えば、$A$ の中で女子児童だけの集合を $C$ としましょうか。
このとき、$f(C)$ とは、女子児童のいる学年の集合
ということになります。そうすると、$f(C)$ はもしかしたら $f(A)$ より
小さいかもしれません。

仮に、ある学年には女子がおらず男子だけの学年があったとすると、
真に、$f(C)\subset f(A)$ が成り立ち、そのような(女子なし)学年を除いた
集合が $f(C)$ ということになります。


逆像というのは、$f$ で写したときに、$D$ に入るような$A$ の集合ということです。
これも上の例を出しましょうか。
例えば、$D\subset B$ として偶数学年とするとします。
$D=\{2,4,6\}$ ということです。
そのとき、$f^{-1}(D)=\{a\in A|f(a)\in D\}$ は学年を聞いたときに偶数であるような
児童全体ということですから、もちろん偶数学年の児童全体を表します。
補集合を取れば、$f^{-1}(D^c)$ は奇数学年全体です。

ここまでで像と逆像という概念の説明を終わります。

合成
写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ とすると、$a\in A$ に対して、$g(f(a))$ を
与える写像を $g\circ f:A\to C$ と書くことにし、
$f$ と $g$ の合成という。


関数でいえば、合成関数のことですね。
あまりここでは問題はないかと思いますので素通りします。



ここでは、スライド通り補題の説明を試みましょう。

補題
写像 $f:A\to B$ が全単射とする。
このとき、ある写像 $g:B\to A$が存在して、$g\circ f=\text{id}_A$ および
$f\circ g=\text{id}_B$ となる。


この補題が意味することは、

「$f$ が全単射であること」は、
「$f$ の逆写像 (逆向きの写像 $g:B\to A$ で、$f$ との合成が恒等写像となるもの)
 が存在すること」

であるということを意味します。

なぜ、単射と全射が成り立てば、逆の対応関係があることを意味するのか
ということを証明するわけです。

$\text{id}_A$ は $A$ 上の恒等写像 $a\mapsto a$ を意味します。

では、証明しましょう。

(証明)
仮定は、$f:A\to B$ が全単射であるということです。
結論は、逆写像 $g$ が構成できるということです。


つまり、写像 $f:A\to B$ が全単射とします。
逆写像 $g:B\to A$ を作りたいのだから、$B$ の元 $b$ をとって、
$g$ による $b$ の行き先となる$A$ の元を決めてやれば良いことになります。

ここで$f$の全射性を用いましょう。
全射はすべての $B$ の元 $b$ に対して $f(a)=b$ となる $a$ が存在するのだから、
なにかしら $a$ が定まります。

しかし、実は、$f(a)=b$ を満たす $a$ は一意に決まることを証明します。

なぜなら、$f(a’)=f(a)=b$ となる$a’$ がもしあったとしたら、
$f$ の単射性から、$a=a’$ が成り立ちます。

つまり、$b$ に対して $f(a)=b$ を満たす $a$ を対応させること
$b\mapsto a$ は写像になるということを言っています。

この対応、$b\mapsto a$ は、写像となり、
この写像を $g$ と書くことにすると、 $g:B\to A$ を与えたことになります。
このとき、$f\circ g(b)=f(a)=b$ であるから、$f\circ g$ は恒等写像であり、
$g\circ f(a)=g(b)=a$ であるから、$g\circ f$ も恒等写像となります。(証明終了)


このとき、$f$ が逆写像をもつなら、$f$ が全単射であるのか?
ということが気になるかもしれませんが、これは実際以下のようにして
証明することができます。

(証明)
$f:A\to B$ が逆写像 $g$ を持つとします。
このとき、$f$ が全射で単射であることを示しましょう。
$f$ が全射であることは、
任意の$b\in B$ に対して、$g(b)=a$ であるとき、$f\circ g(b)=f(a)=b$
ですから、$f(a)=b$ となる $a$ が見つかるということは $f$ が全射であるということ
になります。

また、$f$ が単射であることは、次のようにして証明します。
$f(a)=f(a’)$ が成り立つとします。

そうすると、$g(f(a))=g(f(a’))$ も成り立ち、
$g\circ f$ は恒等写像であるから、$a=a’$ となります。
よって、$f$ は単射です。(証明終了)


このことから、

「$f$ が全単射であること」$\Leftrightarrow$ 「$f$ が逆写像をもつこと」


ことがわかりました。
つまり、$f$ が逆写像を持つかどうかを確かめるには、$f$ が全射で単射であることを
確かめればよいということにもなります。



次の補題は、
合成に関する話です。

補題
写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ に対して、次が成り立つ。
(1) $f$ と $g$ が単射ならば、$g\circ f$ も単射である。
(2) $f$ と $g$ が全射ならば、$g\circ f$ も全射である。
(3) $f$ と $g$ が全単射ならば、$g\circ f$ も全単射である。

証明をしておきましょう。
(1) $f,g$ が単射であるとします。このとき、$a,a’\in A$ に対して、
$g\circ f(a)=g\circ f(a’)$ が成り立つとする。(結論として$a=a’$ であることがわかればよい)
このとき、$g$ の単射性から $f(a)=f(a’)$ が成り立ち、$f$ の単射性から
$a=a’$ となります。


(2) $f,g$ が全射であるとします。
$g\circ f$ が全射であることを示します。
任意の $c\in C$ に対して、$g(b)=c$ となる $b\in B$ が存在します。
$f$ が全射であることから、$f(a)=b$ となる $a\in A$ が存在します。
よって、$g\circ f(a)=g(b)=c$ となるので、$a\in A$ となります。

(3) $f,g$ が全単射であるとすると、$g\circ f$ は(1) と(2) を用いて
全射かつ単射になります。よって$g\circ f$ は全単射となります。(証明終了)



一言で言って仕舞えば、
写像が単射であれば、違うものは違うものに写るので
それが2回合成されても違うものは違うものに行くということと、

写像が全射であれば、集合全部に向けて写っている写像を2回
合成しても、全体に向けてうつされるということです。


(3) は(1)と(2) を合わせただけとなります。


次の命題はこれまでと違ってさほど簡単ではないかもしれません。
なので命題となっています。
これまでの内容(特に定義)がわかればわかると思います。

命題
2つの写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ に対して次がなりたつ。

(1) $g\circ f:A\to C$ が単射ならば $f$ も単射
(2) $g\circ f:A\to C$ が全射ならば $g$ も全射


もう一度証明をしておきます。
(1) $g\circ f$ を単射であるとします。
このとき、$a,a’\in A$ をとります。$f(a)=f(a’)$ が
が成り立つとする。(目標は、$a=a’$ となることなのですが...)
このとき、$g\circ  f(a)=g\circ f(a’)$ が成り立ちます。
今、$g\circ f$ が単射であることから、$a=a’$ がわかります。
よって、$f$ が単射であることがわかります。


(2) $g\circ f$ が全射であるとします。
このとき、示すことは、任意の$c\in C$ に対して $g(b)=c$ となる$b$ が
存在することです。
しかし、今 $g\circ f$ は全射であるので、$g\circ f(a)=c$ となる$a$
が存在します。よって、$b=f(a)$ とすることで、$g(b)=c$ となる$b\in B$
が存在することがわかります。(証明終了)


最後に次の問題をときます。
これはある意味集合の問題です。

問題
写像 $f:A\to B$ を考える。このとき、部分集合 $C_1,C_2\subset A$ に
対して、
(1) $f(C_1\cap C_2)\subset f(C_1)\cap f(C_2)$
(2) $f(C_1\cup C_2)=f(C_1)\cup f(C_2)$

が成り立つ。

$X,Y$ が集合であるとします。$X\subset Y$ が成り立つということを証明するには、
$X$ の任意の元 $x\in X$ が $x\in Y$ であることを証明をすれば良い
です。

また、集合 $X,Y$ に対して、$X=Y$
であることは、$X\subset Y$ かつ $Y\subset X$ が成り立つことです。
つまり、$x\in X$ ならば $x\in Y$ であり、$y\in Y$ ならば $y\in X$ 
が成り立つことを示せば良いです。


(1) の証明
$b\in f(C_1\cap C_2)$ であるとします。
このとき、$b=f(a)$ となる $a\in C_1\cap C_2$ が存在します。
よって、$a\in C_1$ かつ $x\in C_2$ が成り立ちます。
よって、像の定義から、$f(a)\in f(C_1)$ であり、$f(a)\in f(C_2)$ 
が成り立ちます。よって、$b=f(a)\in f(C_1)\cap f(C_2)$ が成り立ちます。
これで、$f(C_1\cap C_2)\subset f(C_1\cap C_2)$ が成り立ちます。


(2) の証明
これはレポート問題なのですが、
方針のみ書いておきます。
まず、$b\in f(C_1\cup C_2)$ ならば、$b\in f(C_1)\cup f(C_2)$ 
を示します。上と同じように、像の定義から、$b=f(a)$ となる
$a\in C_1\cup C_2$ が存在します。そして.....

今度は逆に、$b’\in f(C_1)\cup f(C_2)$ とすると、$b\in f(C_1\cup C_2)$
が成り立つことを示します。

$b'\in f(C_1)\cup f(C_2)$ とすると、$b’\in f(C_1)$ または、$b’\in f(C_2)$ が成りたちます。
前者であれば、$b’=f(a’)$ となる $a’\in C_1$ が存在し、
後者であれば、.....
----------------
このように、
$f(C_1\cup C_2)\subset f(C_1\cup C_2)$

$f(C_1)\cup f(C_2)\subset f(C_1\cup C_2)$
を両方示すことによって
証明を行います。


この内容でわからないことがありましたら、下のコメント欄か、
いつでも連絡いただければと思います。
連絡先は、数学リテラシー1の下部にあります。

2020年4月29日水曜日

数学リテラシー1(第1回)

[場所:manaba上(火曜日12:00〜)]


集合の基礎

まずは数学は集合からやっていかなくちゃならんのですが、

そこで最初に躓くことは、この集合という抽象的な概念です。
しかし、集合はわかってしまえばなんてことはありません。
考え方をみにつけてしまえばたとえ小学生だって理解できます。

抽象的な概念をやわらかくするには、
頭の中によい例を思い描くことです。
理解のためには具体的なイメージを持つことが大切です。

まず、集合がどういうものか述べます。

集合とはものの集まりをいいます。
ものというのは、数字や論理式を用いて定義された対象を
集めたもののことをいいます。
集合に入っている要素をといいます。


集合というと、「集合!!整列!!前ならえ!!」
という体育の時間かと思いますがそうではないですね。
確かに筑波は体育学群もありスポーツは盛んですが、
数学だってやっています。ノーベル賞だって獲っています。
魔法使いもいます。

それはさておき、
集合とは、物があつまった状態、そのものたち
自身のことをいいます。

イメージするものは、
例えば、りんごがバスケットの中にいくつか入っているイメージでしょうか。
りんごが一つの場所に集まっています。ものが集まっていますから
この状態を集合といいます。
大事なことは、ものというのは、りんごのように一つ一つがちゃんと
区別されている必要があります。
おばけのように、考えているうちに消えてしまったりするようなものは
集合とはなりません。

なのでおばけの集合というものは考えることはできません。
このへんは考え方次第かもしれませんが....
少なくとも、みんながそれ!と確認ができるものでないといけません。


そのほか、ある幼稚園にいる園児だって一人一人を元とした集合をなします。
目まぐるしくうごきまわってなかなか判別することは難しいかもしれませんが、
カリスマ保育士がひとたび声をかけて、絵本を読みだせば、みんな静まり返って
その絵本の読み聞かせに耳を傾けます。
どちらにしても、そこに、一つ一つ区別できる対象が存在することが大事です。


数学でよく扱う例をみましょう。


よく数学で使われるのは次の集合たちです。
${\mathbb N}$ 自然数の集合
${\mathbb R}$ 実数の集合
${\mathbb Q}$ 有理数の集合
${\mathbb Z}$ 整数の集合

この集合たちにはこのさき同じ記号を使っていくことになります。

集合$X,Y$ に対して、$X$ の全ての元が $Y$ の元であるとき、

$X\subset Y$ と表します。
つまり、$X$ の全ての元が $Y$の元であるということです。
$X\subset Y$ のような関係を包含関係といいます。
$X$ のことを $Y$ の部分集合ということもあります。

上の例ですと、
$${\mathbb N}\subset {\mathbb Z}\subset {\mathbb Q}\subset {\mathbb R}$$
のような包含関係になります。

何も元を含まないものを空集合といいます。
空集合も集合の一つです。$\emptyset$ と書きます。
$\{x|x\not\in A\}$ のことを$A^c$ のように書いて、$A$ の補集合といいます。
c とは、補集合を表すcomplementの頭文字です。


集合の書き方

$A$ の集合で、命題 $P(x)$ を満たす集合を
$$\{x\in A|P(x)\}$$
のように書きます。
命題については、のちに解説されます。

例えば、1より大きい整数の集合は、

$$\{x\in {\mathbb Z}|x>1\}$$

となります。

集合の演算

集合同士の演算を以下のように定義します。
$A\cup B=\{x|x\in A\text{または}x\in B\}$ (和集合)
$A\cap B=\{x|x\in A\text{かつ}x\in B\}$ (共通集合)
$A\setminus B=\{x|x\in A\text{かつ}x\not\in B\}$ (差集合)

$A\setminus B=A\cap B^c$ と書くこともできることに注意しておきます。

ド・モルガンの法則

次が成り立ちます。
$$(A\cap B)^c=A^c\cup B^c$$
$$(A\cup B)^c=A^c\cap B^c$$

補集合と集合の演算の間の分配法則ですが、
$\cap$ と $\cup$ が互いに入れ替わることに注意をしてください。


問題
$$U=\{1,2,3,4,....20\}$$
とする。
$A=\{x\in U|x\text{は素数}\}$
$B=\{x\in U|x\text{は60の約数}\}$
$A\cup B$, $A\cap B$, $A\setminus B$ $(B\setminus A)^c$ はどうなるか?

とすると、以下の集合となります。
$$A\cup B=\{1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,15,17,19,20\}$$
$$A\cap B=\{8,9,14,16,18\}$$
$$A\setminus B=\{7,11,13,17,19\}$$
$$(B\setminus A)^c=(B\cap A^c)^c=B^c\cup A=\{2,3,5,7,8,9,11,13,14,16,17,18,19\}$$


問題
(1) 3つの元からなる集合 $\{a,b,c\}$ の部分集合を全て書け。
(2) また、元の数が $N$ 個の場合、その部分集合はいくつ作られるか?

(解答)
(1) $\emptyset$, $\{a\}$. $\{b\}$, $\{c\}$, $\{a,b\}$, $\{a,c\}$, $\{b,c\}$, $\{a,b,c\}$ (解答終了)

となります。ここで空集合も部分集合であることに注意しましょう。

(2) $N$ この元からなる集合の部分集合を数える。
$\{a_1,a_2,\cdots, a_N\}$ の部分集合は、それぞれの元についてそれが
含まれるか含まれないかの
2通りずつパターンがあるから、全部で、$2^N$ 通りあります。
つまり部分集合は全部で $2^N$ 個作れる。(解答終了)


命題
命題・・・真偽が判定できるもの。

$p,q$ をそれぞれ何かの命題とする。
例えば、$p=$「$a$ は $-1$ 以下である」などである。
この場合、$a$ に何か入れて成り立つので、
$p(a)$ ということもあります。

「$p$ かつ $q$」 を $p\land q$ とかきます。
「$p$ または $q$」 を $p\lor q$ とかきます。
「$p$ ならば $q$」 を $p\Rightarrow  q$ とかく
$p$ の否定命題を $\bar{p}$ とかく。

よって、$p\Rightarrow q$ の対偶は、$\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$ とかける。


全体集合 $U$ を決めておきます。
このとき、
$P=\{x\in U|p(x)\}$ を命題 $p$ の真理集合という。
命題$q$ の真理集合を $Q$ と書くと、
$p\land q$ の真理集合は、$P\cap Q$ となり、
$p\lor q$ の真理集合は、$P\cup Q$ となり、
$\bar{p}$ の真理集合は、$P^c$ となります。
また、
$p\Rightarrow q$ であることは、
$P\subset Q$ とかけます。

ド・モルガンの法則は、命題を次のように書き換えることができます。
$\overline{p\land q}=\bar{p}\lor \bar{q}$
$\overline{p\lor q}=\bar{p}\land \bar{q}$
ここでのイコールは、命題の真偽がこの両辺においていつでも一致する
ことを表しています。

また、対偶が等しい命題であることは、
$p\Rightarrow q=\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$
と書くことができます。