2018年6月18日月曜日

外書輪講I(第8回)

[場所1E503(月曜日5限)]


 今回は、線形代数の続き、MatousekのMiniature 5を少しと9をやりました。

線形代数

問題は、以下の同値関係を示せというものです。
$A$ を正方行列とする。

$A$ が正則である$\Leftrightarrow$ 連立一次方程式 $A{\bf v}={\bf 0}$ は、${\bf v}={\bf 0}$ 以外解を持たない

$A$ が正則であるとは、逆行列をもつということとします。

(解)
($\Rightarrow$)
$A$ が逆行列をもつとします。
${\bf v}\in {\mathbb C}^n$ が $A{\bf v}={\bf 0}$ を満たすとき、
$A^{-1}$ を両辺にかけることで、${\bf v}=A^{-1}A{\bf v}=A^{-1}{\bf 0}={\bf 0}$ となります。よって${\bf v}={\bf 0}$ が成り立つので、
$A{\bf v}={\bf 0}$ には非自明な解以外持たないことがわかります。

($\Leftarrow$)
行列 $A$ を$A=({\bf a}_1{\bf a}_2\cdots {\bf a}_n)$ と縦ベクトルとして書くとき、
同値関係の右の条件は、${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n$ が一次独立であること
と同値です。

なぜなら、${\bf v}^T=(c_1,c_2\cdots, c_n)$ と仮定します。
$A{\bf v}=c_1{\bf a}_1+c_2{\bf a}_2+\cdots +c_n{\bf a}_n={\bf 0}$ とすると
この $(c_1,c_2,\cdots, c_n)$ の解が $(0,0,\cdots, 0)$ しかないことは、
${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n$ が一次独立であることと同値であるからです。

${\bf a}_1,{\bf a}_2\cdots, {\bf a}_n$ が一次独立とします。

このとき、以下の行の基本変形をすることで行列を簡約化します。
$$A\to A_1 \to A_2\to \cdots \to B$$
をそのような列とします。$B$をその簡約行列とします。
とくに、$B$ は階段行列です。
$B$ の $i$ 行目は、
$$(0,\cdots, 0,1,\ast,\cdots, \ast)$$
のような形にしており、最初の $0$ の数は、 $i$ が増えるに従って単調増加します。
また、$1$ のある列を、$B$ の先頭列といいます。
先頭列は、必ず数ベクトル空間の標準基底となっています。
つまり、$B$ の縦ベクトルのいくつかは、標準基底となっています。
それ以外の列があれば、その列はその標準基底の一次結合によって
書くことができます。

$A$ の全ての縦ベクトルは一次独立なので、$B$ の縦ベクトルも一次独立です。
よって、$B$ の全ての縦ベクトルは全て先頭列、つまり標準基底出なければならない
(つまり $B$ には、先頭列以外のベクトルは存在しない。)
ので、$B$ は単位行列 $E$ というなります。

行の基本変形は左から正則行列を掛けることに対応するので、
ある正則行列 $G$ が存在して、
$$GA=B=E$$
となります。よって、$A$ には、逆行列 $G$ が存在するので、
$A$ は正則行列ということになります。
$A$ には、左逆行列が存在するので、$A=G^{-1}E=G^{-1}$
となり、$AG=G^{-1}G=E$ となり、右逆行列も存在し、
$G=A^{-1}$ とおけば、
$A^{-1}A=AA^{-1}=E$ となり、$A$ は正則行列ということになります。$\Box$

以下が成り立つことになります。

$n\times n$ 行列 $A$ が正則でないとすると、
${\bf 0}\neq {\bf v}\in {\mathbb R}^n$ が存在して、
$A{\bf v}={\bf 0}$ となる。

Miniature 5
ですが、まだあまり理解していなかったようですので来週となりました。「

Miniature 9
ですが、こちら(←リンク)に先週Equiangular linesの定義とその定理について記述したので、
今回はその証明ということになります。

定理
${\mathbb R}^d$ に存在する等角直線族は、高々 $\binom{d+1}{2}$ 本
であり、$d=3$ の場合は、その最大 6 をとることができる。

後半の主張は、正20面体を取ればよいですから、
示すべきなのは、前半の主張です。

証明、
${\bf v}_i$ ($i=1,2,\cdots, m)$ をその等角直線を表す単位ベクトルとする。
このとき、$i\neq j$ であり、$|\langle {\bf v}_i,{\bf  v}_j\rangle|=\cos\theta$ となります。
ここで、${\bf v}_i$ は縦ベクトルです。

$S_i={\bf v}_i\cdot {\bf v}_i^T$ は $d\times d$ のサイズの対称行列となります。
この行列 $S_1,S_2,\cdots, S_m$ は、$M(d,{\mathbb R})$ の対称行列全体の
なすベクトル空間の中で、一次独立であることが分かれば、
$m\le \binom{d+1}{2}$ となります。ここで、$\binom{d+1}{2}$ は
対称行列全体のなすベクトル空間の次元です。

よって、$S_1,\cdots, S_m$ が一次独立を示せばよいことになります。
$a_1S_1+\cdots+a_mS_m=O$ とします。
ここで、$O$ は零行列です。このとき、
$$\sum_{i=1}^ma_i{\bf v}_j^T{\bf v}_i{\bf v}_i^T{\bf v}_j=\sum_{i=1}^ma_i\langle {\bf v}_i,{\bf v}_j\rangle^2=a_j+\sum_{i\neq j}a_i\cos^2\theta$$
となります。

ここで、$M$ を $m\times m$ として、その $i$ 行は、
$\begin{pmatrix}\cos^2\theta&\cdots &\cos^2\theta&1 &\cos^2\theta&\cdots &\cos^2\theta\end{pmatrix}$
とし、$1$ は、$i$ 番目の成分とする。このとき、

$M=(1-\cos^2\theta)I_n+\cos^2\theta J_n$ となります。
$J_n$ は成分全て $1$ の行列とします。

この行列 $M$ が正定値であることを示します。
${\bf x}$ を ${\bf x}\neq {\bf 0}$ なる ${\bf x}\in {\mathbb R}^m$ とし、
${\bf x}^T=(x_1,x_2,\cdots, x_m)$ とします。
${\bf x}^TM{\bf x}=(1-\cos^2\theta)||{\bf x}||^2+\cos^2\theta{\bf x}^TJ_n{\bf x}$
$=(1-\cos^2\theta)||{\bf x}||^2+\cos^2\theta(x_1+x_2\cdots+x_m)^2> 0$
となります。よって、$M$ は正定値の行列となります。

正定値行列は正則でるので、$M$は正則となります。よって、
$M\begin{pmatrix}a_1\\\vdots\\a_m\end{pmatrix}={\bf 0}$
なら、$a_1=a_2=\cdots =a_m=0$ となります。

よって、$S_1,S_2,\cdots, S_m$ は一次独立であるので、$m\le\binom{d+1}{2}$
が成り立つ。$\Box$

この等角直線の問題は、ある $m$ 本の等角直線族が構成できれば、
そこから1本抜けば、$m-1$ 本の等角直線族が構成できるのは言うまでもないので、
重要なのは、それが最大何本取れるかということです。

$v(d)$ を $d$ 次元のユークリッド空間上の等角直線の最大個数とします。
座標軸を取ったときは、全て直角な等角直線ですので、
明らかな不等式、$d\le v(d)$ があります。

$v(d)$ が最低何本取れるか?最高何本取れるか?
に興味があります。

このとき、いつでも $\v(d)=\binom{d+1}{2}$ 取れるというわけではなく、
例えば、
$v(2)=3$ かつ、$v(3)=6$ であることはすぐに分かりますが、
$v(4)=6$ (Haantjes) や 
$v(5)=10$, $v(6)=16$  (Van Lint and Seidel)
$v$ の値は、順に、

$$1,3,6,6,10,16,28,28,28,28,28,28,28,\cdots$$

Wikipediaには、7次元の $\binom{7+1}{2}=28$ 個の
等角直線族の作り方が描いてありました。
${\mathbb R}^8$ 上で、
$(-3,-3,1,1,1,1,1,1)$ と、それらを入れ替えた28個のベクトルを用意すると、
それらの内積は、$\pm8$ となるので、等角直線族となる。
また、それらは全て、$(1,1,1,1,1,1,1,1)$ と直交するので、
そのベクトル空間の中で、この28個は最大の等角直線族となる。

これらのベクトルは、7次元の中の $3_{21}$ と呼ばれる多胞体(多面体の高次元版)
の頂点(頂点は56個あり、原点を通る直線は、その半分の28本)に位置しており、
その対称変換群が $E_7$ で分類されるコクセター群になります。

など、次元によって $v(d)$ は異なり、構成も難しいです。
しかし、自分なりのベクトルをとって数値実験をしてみたり、
有限幾何と絡めて見たりと、研究してみると面白いかもしれませんね。

参考文献の[L-S]には、今回の不等式が載っていますが、
著者2人がGerzonとprivate communication
をしたとなっており、Gerzonの不等式としています。
[L-S]に証明されている定理として、

定理[L-S(Theorem 3.5)]
$v(r)\le r(r+1)/2$ が成り立つ。また等式が成り立つなら、$r+2$は
4,5となるか、ある1より大きい奇数の2乗となる。

があります。
上の7次元の例は、$7+2=3^2$ となっているので、丁度、この
定理を満たす十分条件にもなっています。

参考文献
  • [L-S]  P. W. H. Lemmens and J. J. Seidel, Equiangular Lines, Journal of Algebra, vol 24, (1973), 494-512

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